南極の見張り番、皇帝ペンギンとの出会い

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南極の見張り番、皇帝ペンギンとの出会い

皇帝ペンギンはユニークな海鳥です。他の動物種は冬になると南極を離れ、他の鳥類は春または南半球の夏に繁殖シーズンを迎えるのに対し、皇帝ペンギンは南極の冬の厳寒期に繁殖を行う唯一の生き物なのです。彼らは、過酷な極地環境に驚くほどうまく適応し、生き残ってきました。その生態を解き明かします。

氷上の皇帝

皇帝ペンギンは、一年を通して南極大陸に暮らす唯一の動物種です。そして、気候条件が最も厳しい真冬を選んで繁殖するという驚きの特性を持っています。しかし、この戦略的な生き方によって、子ペンギンはエサの豊富な夏の初めに親ペンギンから離れ、独立することができるのです。

皇帝ペンギンの繁殖サイクルは、3月から12月と、1年の大半を占めます。2ヶ月かけて洋上でエサをたっぷりと食べ、アイス・ジャムと呼ばれる、海に海氷が詰まった状態が形成される冬の始まりに、成長した個体は氷上に移動します。この時期、他の野生動物はより過ごしやすい気候条件を求め、南極を離れます。

何百という数の皇帝ペンギンがたくましく列をなし、氷上を時に100キロ以上も歩いてコロニー(営巣地)を目指します。コロニーには、数万羽の皇帝ペンギンが集まることもあります。南極大陸には、約60のコロニーが確認されています。

コロニーでそれぞれにパートナーを見つけ、5月から6月にかけてメスが卵を1つ産みます。産卵を終えたメスは、エサを求めコロニーから海に戻ります。卵をあたためるのは、残されたオスの役目です。皇帝ペンギンのオスは、足の甲に卵を乗せ、その上にお腹の皮膚がうまく被さるようにして、卵をあたためます。これは卵を孵化させる上で特に重要なポイントです。長く氷に接してしまえば、卵はすぐさま凍り付いてしまうからです。

7月、卵が孵化します。この時期にメスはコロニーに戻り、胃の中に蓄えたエサをヒナに与えます。これが約1カ月続きます。その間に、4ヶ月以上何も食べず、最大で体重の45パーセントを失ったオスがコロニーを離れ、静かな氷の世界から海に向かいます。そこでエサを捕り貯め、子ペンギンに食べさせるためコロニーに戻ります。

疲れを知らないかのように歩き続けることのできる親ペンギンは、繁殖期の間、コロニーとエサ場を何度も往復します。その旅は、氷が割れ始める12月頃に子ペンギンがひとり立ちするまで続きます。

南極の厳冬期に迎える繁殖期は、皇帝ペンギンの体温が定温動物としては最も高い時期にあたります。これは、地球上で最も過酷な気候環境で生きるための仕組みです。彼らは、この極限の自然環境をどのように生き抜くのでしょう?

極地を生き抜く紛れもないチャンピオン

皇帝ペンギンは、このような厳しい環境で生きることができる地球上で唯一の生き物です。彼らは、氷上での生存に見事に適した生体構造と習性を持っています。

解剖学の観点から見ると、皇帝ペンギンの体には、四層の鱗状の羽毛、分厚い脂肪、体温の維持に驚くほど適した血液系といった、寒さに立ち向かうための構造が幾つも備わっています。

それだけではありません。寒冷地での生存に合わせて習性も変化させてきたのです。皇帝ペンギンは、寒さに晒される体の表面積を減らすために、独特の立ち方を編み出しました。風に背中を向け、つま先と足下の脂肪層に体重を乗せる形で立ち、首を引っ込めるのです。

さらに、皇帝ペンギンは平和な生き物で、鳥類では珍しく縄張りを持ちません。このことと、巣を作らず足下で卵をあたためるという習性によって、皇帝ペンギンはコロニーの中をいつでも動くことができます。そうすることで、生存に不可欠な体温調節が可能となるのです。実際、コロニーにいる皇帝ペンギンは互いに隙間なく並び、カメの甲羅模様に似た形を形成し、その内側に特殊な微気候(Microclimate)を作り出します。これは、内側にいるペンギンがそれぞれに体を温めることで、体温が奪われるのを防ぐ仕組みです。ペンギンたちは互いに入れ替わり、内側と外側を交互に担当するのです。

ヒナもまた、体温調整ができるようになると、同様の行動をとります。ヒナ同士が体を寄せ合い、親ペンギンと同じようにカメの甲羅模様を形成して、-50°Cを下回ることもある環境を生き延びるのです。

学名“Aptenodytes Forsteri”:泳ぎと歌の奇才

皇帝ペンギンは、南極の厳しい冬に驚くほどの順応を見せるだけではなく、他にも独自の才能を持ち合わせています。

例えば、皇帝ペンギンはそれぞれに違う歌い方をします。声に特徴があることで、家族の声を聞き分けることができ、数万のペンギンからなるコロニーの中で、互いを見つけることができるのです。

他のペンギン同様、皇帝ペンギンも飛べない鳥です。しかし、泳ぎは得意です。素晴らしい泳ぎによって、厳しい極地環境を生きることができるのです。実際に、皇帝ペンギンは500メートルもの深さを潜る力を持ち、水中に30分以上留まることもできる、目を見張る能力を備えた海洋捕食動物なのです。翼をヒレに、足と尾を舵にして、水中を自在に動き回ります。

”Aptenodytes forsteri”が、皇帝ペンギンの学名です。実はこの学名は、皇帝ペンギンが持つ能力を表しています。”Aptenodytes”の語源は、ギリシャ語で「飛べない」を意味する “apteron”と、「潜水士」を意味する”dytes”にあります。つまり「飛べない潜水士」、それがコウテイペンギンなのです。

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