地球の北の果てへ
手付かずの大自然と息を飲むほどに美しい景色。アメリカの極北地域は、金鉱を探し求める人々や罠猟師にとって、スリル満点の冒険が待ち受ける楽園ともいえる場所でした。彼らの足跡をたどりアラスカやアリューシャン列島、カナダを訪れれば、忘れがたい自然景観や珍しい野生動物と出会うことができるでしょう。さあ、冒険の旅が始まります。
金と毛皮をめぐる物語
皮なめしの歴史は人類誕生までさかのぼりますが、毛皮交易が北米大陸でとりわけ盛んになったのは17世紀のことでした。罠（トラップ）を用いて動物を捕獲する技術の名前（トラッピング）が、当時この地に冒険を求めてやってきた多くの人々の呼称（トラッパー＝罠猟師）となったのも、ちょうどその頃です。罠猟師たちは、広大な未開拓地の制覇にまつわる数々の伝説を残しました。彼らは、動物を罠で捕獲するのに最適な場を探すため、山々を越え、海岸や森を歩き、何千キロもの距離をほぼ自らの足で移動しました。罠猟師は19世紀後半、カナダのノースウェスト準州やユーコン準州、アラスカを探索するうちに、金鉱を求めやってきた人々と遭遇します。10万人ともいわれる金探鉱者が、世界中から極北の地に押し寄せたのです。最もよい季節の間でさえ気候条件は厳しく、冬ともなれば非常に過酷な環境にあるクロンダイク地域やアラスカ西端の金鉱地で、一攫千金を目指し、最高の金脈を掘り当てようとしたのです。
野生動物の宝庫
「広大で荒々しい大地を実際に訪れ、人生が変わりました。シャチやクマなど、全く手つかずの美しい楽園に生息する様々な野生動物の姿も、まるで現実とは思えない光景でした」。そう振り返るのは、冒険家であり北極地域のエキスパートであるニコラ・デュブレイユ氏です。18歳のときにアラスカを訪れ、その素晴らしさに魅了されたと言います。現在、チルカット川をラフティングすれば、かつてこの地に暮らし、移動する獲物や肉食の動物を追い求め川の上流へと向かった罠猟師が目にしたように、クマやヘラジカ、時にはオオカミの姿を見かけることがあります。しかしこの地域の主役は、自然界の名狩人、ハクトウワシです。この地域を訪れる人の中には、ハクトウワシの巣を発見する人もいます。17世紀、アリューシャン列島には最初のロシア人罠猟師が定住するようになり、彼らはラッコの皮を専門に扱うようになりました。島々を囲む海域には、多くのクジラやシャチ、海鳥など多様な海洋生物が生息し、訪れる人々を楽しませています。
広大な大地
ユーコンやアラスカ、アリューシャン列島沿岸を船で旅すれば、かつてほぼ手付かずだったこの地域にやってきた金探鉱者を圧倒したに違いない、気の遠くなるような広大さを実感することでしょう。上空を飛ぶ鳥が地上を見下ろすようにこの地域を見渡す旅―水上飛行機の旅―もまた、格別に美しいものです。水上飛行機は、訪れる人々の移動や地域の調査飛行によく用いられており、北米大陸の極域の沿岸部に集中する見事な自然風景を堪能することができます。クロンダイクに向かう金探鉱者が最初にたどり着いたスキャグウェイとヘインズの2つの町からは、グレイシャー・ベイにそびえる山々の峰を望むことができます。世界遺産に登録されている山々であり、そこに広がる氷河や氷原、森林が、心に残る素晴らしい景色を見せてくれます。19世紀に生きた開拓者や冒険家が経験したのと同様の探検を求める方々には、カヌーと徒歩による探索がおすすめです。真の冒険体験が叶うことでしょう。毎年2月には、特別な犬ぞりレースであるユーコン・クエストが開催され、世界中から勇敢で経験豊かなマッシャー（犬ぞり師）が、数週間にわたり続く長く厳しい旅に挑みます。
ケベックやアラスカからアリューシャン列島、そしてカナダのノースウェスト準州まで、各地に暮らす先住民族の多くは、自然と深く結びついた古くからの風習を今なお続けています。トリンギット族の人々が暮らすケイクと呼ばれる村には、世界で最も高いトーテムポール（彫刻柱）の一つが立っています。村に住むトリンギットの人々は、狩猟、採集、漁ろうを行い、生活を営んでいます。 ユーコン川を上流へと行けば、よく知られる3人の先住民族、ショー・クロー、キーシュ、カー・グークスの足跡をたどることができます。タギッシュ族の3人は、クロンダイク地域で動物を捕ろうと罠をしかけている際に、金で溢れる小川を発見した人物です。 アレウト族（アレウト語での自称は「ウナンガン」）の人々もまた、生活環境と結びついた伝統的職業、とりわけ漁ろうと工芸産業に従事しています。何千年にもわたり狩猟に用いてきたバイダルカと呼ばれるカヤックに乗る姿が今も見られます。伝統を守り自然と調和することで、彼らはこの「地球の最果て」を守っています。その最果てを目指し、一世紀以上も昔、多くの冒険家が伝説的な冒険の旅に向かいました。