世界最大のフィヨルド
グリーンランド東海岸。北極線を越えさらに北へと進めば、北緯70度から72度にかけての地域に、フィヨルドが織りなす美しい大自然が広がります。その一つが、世界最大のフィヨルド、スコアズビー・サウンドです。このフィヨルドには、どのような魅力が秘められているのでしょうか。探検家、ジャン=バティスト・シャルコーがかつて歩んだ足跡をたどり、想像をはるかに超える自然の圧倒的な美しさを探ります。
スコアスビー サウンド 他に類を見ない自然環境
北を北東グリーンランド国立公園に、南をブロッセビル海岸にはさまれたスコアズビー・サウンド(デンマーク語では「スコアズビー・スンド)」は、東西の距離が300キロ以上にわたる巨大な湾です。面積は13,700㎢を誇り、面積、深さ共に世界一のフィヨルド群です。ここから枝分かれするフィヨルドの合計面積は、38,000㎢にも上ります。
探検の舞台
スコアズビー・サウンドは1822年、イギリスの探検家ウィリアム・スコアズビーの手により初めて地図に描かれました。スコアズビーは、グリーンランド東海岸の約650キロに及ぶ範囲を地図に描き起こし、この地域の地理が初めて世界に知られることとなります。ジャン=バティスト・シャルコーもまた、この地域を好み、調査・探検に訪れました。3本マストの船、“プルコワパ?”に乗船したシャルコー船長は、1925年から1936年の間にスコアズビー・サウンドを数回にわたり訪れています。1925年、シャルコーは初めてイトコルトルミット村を訪れます。デンマークの探検家アイナー・ミケルセンと、はるか南に浮かぶグリーンランド・アンマサリク島出身のイヌイット数人が拓いた集落です。イトコルトルミットへは、ヘリコプターを使って、あるいは、一年のうちの数日だけですが、船によってアクセスすることとなります。345人が暮らすこの村(2020年現在)は、人が暮らす地域としてはグリーンランドで最も辺境な地域にあります。1932年から1933年にかけて、シャルコーはフランス初となる極地研究拠点をスコアズビー・サウンドに設立するための現地調査を指揮することとなり、この村に調査基地を設けました。
豊かな動植物 未踏の大自然がそのままに
大規模で急傾斜のフィヨルドから切り立つ崖や巨大な氷河が現れ、氷山が漂うスコアズビー・サウンドでは、ありとあらゆるものが大スケールです。北東グリーンランド国立公園の南端には、グリーンランド東海岸最大のツンドラ地帯の一つ、ジェームソン・ランド半島の琥珀色に輝く荒れ地が10,000㎢以上にわたり続いています。ミルネ島の西海岸には、地層に含まれる鉄により大地が赤く染まったロード・フィヨルドが広がり、真っ白な雪を頂く山々とのコントラストが見事です。こういった素晴らしい自然環境に、ホッキョクグマ、ジャコウウシ、ホッキョクオオカミ、ホッキョクキツネ、カモメ、カナダガン、その他渡り鳥など、貴重な野生動物が暮らしています。凍てつくグリーンランド海には、セイウチやイッカクが泳ぎ、時にシロイルカの姿が見られることもあります。