スヴァールバル諸島に広がる未踏の大自然を求めて
旅行経験豊富なコレットご夫妻は、人生の冒険と呼ぶにふさわしい、素晴らしい旅を体験しました。訪れたのは、世界の最果てに広がる正真正銘の辺境地。グリーンランドでポナンのクルーズに乗船した二人は、氷に覆われた島々、ノルウェーのスヴァールバル諸島へと向かいます。諸島最大のスピッツベルゲン島をめぐる壮大な冒険について、その忘れがたい思い出を二人が語ります。
眼前に広がる別世界
勇敢な旅人たちがスヴァールバル諸島に到着したのは7月初旬。二人の目の前に広がっていたのは、見渡す限り続く、白と青のコントラストが美しい氷の世界でした。62,000㎢以上の面積を持ち、その60%を氷が覆うスヴァールバル諸島は、北極圏に位置しながらも比較的穏やかな気候に恵まれています。気温は冬の-16℃から夏の12℃と、幅広く変化します。
ノルウェーと北極点の間、北極海に浮かぶこの島々の不思議を探るべく、コレット夫妻の新たな旅が始まりました。「船は氷河やモレーン(氷河地域特有の地形)の間を進みます。不毛な荒野が広がる大自然への敬意に満ちた旅でした」。天候が厳しい日もあることから、防寒上着のパルカ、手袋、極地気候に適したブーツ、毛皮の帽子、ゾディアック・ボートで上陸する際に足元を濡らさないための防水パンツなど、特別な装備が用意されていました。準備を万端に整え、いよいよ冒険の始まりです。
最初の野生動物との遭遇
冒険家二人を乗せた船は、氷河の縮小によって生まれた巨大フィヨルド、ハンベルグブクタへと進みます。そこには、海に浮かぶ氷の上で日光浴をするワモンアザラシやアゴヒゲアザラシの姿がありました。「アザラシたちは、流れゆく時間について考えを巡らせているかのようでした。小さな子犬を思い起こさせる表情で、その可愛らしさにすっかり心が和みました」。フィヨルドをさらに奥へと進んだ砂の上には、牙を投げ出すかのようにごろりと寝転んだセイウチが、太陽の光を存分に浴びようとしている姿が見られました。そのとき、海岸線に一匹のホッキョクギツネが現れました。セイウチの群れは驚いた様子です。冬場は真っ白なホッキョクギツネですが、夏になるとその毛皮が茶色に変わることから、保護色となって周囲の環境に紛れることができるのです。するとそのキツネがさらに近づいてきたというのです!コレット夫妻にとって、これは思いも寄らない幸運でした。「驚くほど愛想のよいキツネでした。まるで映画俳優がカメラの前で足を止めるように、私たちに写真を撮らせてくれたのです」。
広大な自然と向き合う
壮大なスケールのネグリブリーン氷河を目の前にした二人に、母なる自然はその驚くべき力を見せつけます。「船が向かった3つ目の目的地で、私たちはスヴァールバル諸島最大の氷河を見ることができたのです。幅20㎞にも及ぶ氷の壁は、圧倒的でした」。氷河の周囲を無数の小さな氷山が囲んでいました。さらに高緯度の地域を覆う氷から分離して生まれた氷山で、それらが集まり氷原が形成されていきます。
氷河の崩壊
ルシェルシュ氷河を訪れると、その前方に露出した地面に数種類の植物が姿を見せていました。夫妻がその風景を楽しんでいたところ、穏やかな静けさが不意に打ち破られました。氷河の崩落です。「氷河の一部が大規模に崩れ落ちたのです。あまりに一瞬の出来事で、その瞬間を見ることはできませんでした」。氷瀑のように崩れ落ちた巨大な氷河は、海面に見事な波を引き起こしました。
海に生きる巨大生物とその気高い姿
洋上でも上陸の際にも、スヴァールバル諸島とその海域に生息する野生動物との出会いは大きな喜びをもたらします。プリンス・カールズ・フォーランド島の峰々が、果てしなく広がる青空にくっきりと姿を現したある日、クジラたちが酸素を取り込もうと海面に浮かび上がってきました。「そのとき、エクスペディションガイドが一頭のシロナガスクジラを指さしたのです。世界中の個体数が500頭から2,500頭しかいないと推定される貴重な生き物です」。
最後に訪れた氷河と待ち受けていたサプライズ
航海最後の日、船は7月14日氷河を前に停泊し、コレット夫妻はその美しい風景を堪能していました。この氷河の名付け親は、モナコ公国のアルベールI世。彼は、スヴァールバル諸島を調査に訪れたこともある経験豊富な探検家でした。海岸線を見ると、鳥の群れが現れました。「旅の最後に、ホンケワタガモ、ニシツノメドリ、幼鳥を引き連れた2羽のガン、愛らしい姿のユキホオジロ、そしてオレンジ色の苔に覆われた崖の下で草をはむ3頭のトナカイの姿も見ることができました」