グリーンランドを味わい尽くす冒険へ

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極地トレッキング ― 極北の地で無限に続く氷の世界をゆく

ポナンが目指すのは、これまでになく意義深い、唯一無二の特別な体験をお客様に提供することです。科学者同行の下で極点到達を成し遂げたポナンは、極地環境でより一層特別な時間を提供すべく、新たな冒険の追求を続けています。ポナンの専門家チームは昨春の終わりに、まだ氷の解けていないグリーンランド北東の海岸部を訪れました。目指すはその地域に暮らすイヌイットの人々と出会い、極地トレッキングというポナンならではの冒険に挑戦することでした。

イヌイットの協力の下、行程作成がスタート

乗船されるお客様に、ポナンが提供する様々な体験への積極的な参加をしていただくためには、ポナンの専門家チームが現地ガイドと共に実際の行程をたどりながら、その地に暮らす人々と出会い、すべてのアクティビティを体験することが不可欠です。それにより、新たに考案されたアクティビティの行程を吟味し、安全性を確認し、参加に必要とされる体力や精神力を判断するのです。今回のテストで目指すのは、イヌイットのガイドであるオーレ・エリアセン氏と共に、グリーンランド北東部で二泊三日の極地トレッキングを実施することです。この特別な探検を率いるのは、極地探検のエキスパート、ニコラ・デュブレイユ氏です。極地に関する幅広い専門知識とサポートを提供するフランスの団体SEDNAで、オペレーション ディレクターを務めています。 「ル コマンダン シャルコーがポナンの就航で、これまで訪れることのできなかった地域に到達することができるようになりました。そしてさらにその先へ。船を一旦離れ、自らの足で訪れる地をより深く探求することも可能となりました。極北の地に広がる、最も辺境な地域に暮らす人々が築いてきた文化を体験し、深く知ることができるのです」 (ポナン戦略・商品開発ディレクター、ブノワ・カラスー=メイヨン)

冒険は船上で始まる:チームメンバーの出会い、認識の共有

2022年5月23日、調査チームに選ばれた幸運な面々が、ル コマンダン シャルコーのギャングウェイを渡り、船に乗り込みました。チームは、様々な分野を専門とし、健康でハイキングに精通したポナンのスタッフと、イヌイット・コミュニティを深く知る熟練ガイドや山岳専門家で構成されていました。そのうちの一人が、グリーンランドのクッロルシュアク出身であるオーレ・エリアセン氏です。氷のエキスパートであり、また医師でもあります。船内は和やかな雰囲気に包まれ、メンバーはそれぞれにリラックスした様子で、個々の表情には期待と希望が感じられます。当然、少しの不安と心細さも見え隠れしています。しかしメンバーには、計り知れないほどの興奮がみなぎっています。特別なチームのメンバーであるという興奮、そして何よりも、唯一無二の体験がわずか数日後に待ち受けているという興奮です。高まる興奮の中、メンバーが互いを知り、チームとしての団結を育む特別な時間がやってきます。 全員が乗船するとまもなく、冒険が始まります。船の中枢である操舵室に広げられた地図を囲むチームの面々に、候補となる下船場所と探検箇所をどう決めるべきか、エティエンヌ・ガルシア船長が自身の考えを話します。「クリスチャン9世ランドにある氷河の麓を目指してはどうかと考えています」。その言葉に、冒険の現実味が増していきます。そしてその日が終わろうという頃、冒険は正に現実のものとなります。船が最初の氷と遭遇したのです。「私たちは今、未知の世界、まさしく冒険の世界に入ろうとしています。ベノア・カラスー=メイヨンが高揚した声で言います。残る課題は、状況に合わせ迂回したり危険を回避したりしながら、極地探検に特有の予測不可能な変化に対応し、これぞという海氷を見つけられるかどうかです。そんなとき、オーレがイヌイットに伝わる諺を口にします。「すべてを導く唯一の存在、それは氷と天候である」。実際、予測以上に厳しい状況に置かれたル コマンダン シャルコーは、予定より少し北に航路を取らなくてはなりませんでした。しかしそれにより、果てしなく続く氷の海を航行する機会が巡ってきたのです。

海氷上を滑るように進む船

幾分南へと航路を修正し、船は上陸するのに十分な大きさの海氷を前に停泊します。様々な装備の準備に取りかかります。目標は、ゾディアック・ボートの係留、テント設営、海に落ちた場合に備えての安全講習です。講習では、全員がドライスーツを着込んで海に飛び込み、ロープを使って氷上に戻るのに必要な方法を身につけます。凍てつく海から上がると、オーレが紹介するゲームをして冷え切った体を温めます。翌日、巨大な海氷に上陸したチームは、ノルディックスキーを装着し、パルクと呼ばれるソリを引きながら進む方法を学びます。重量が20㎏ともなるパルクには、各自が必要とする食料、寝袋、テント、極地仕様の手袋、ヘッドライト、シャベルなどの装備を積載します。ル コマンダン シャルコーを離れ、夕刻の柔らかな光の中を一列に進むメンバーたち。彼らはまもなく、強い解放感に包まれていきます。果てしなく続く銀世界、氷丘脈、雪に覆われた山々・・・眼前には壮大な景色が広がります。2日間にわたる氷上でのアクティビティは、徐々に厳しさを増していきました。「氷上訓練を行うことで、翌日に控えた出発に向けて、気持ちを落ち着かせることができました」と、メンバーの一人が語ります。翌日が、「Dデー」と呼ばれる、出発(Departure)の日なのです。朝8時に操舵室に集合したメンバーは、朝食を取りながらブリーフィングを行い、2泊3日の極地トレッキングにいよいよ出発します。どのような援助も存在しない、あらゆるものから切り離された氷上の時間が待ち受けています。

極地トレッキング:未知へと飛び込む体験

ル コマンダン シャルコーは遂に、極地トレッキングのスタートに最適な地点を発見します。人が暮らす地域として、グリーンランド東海岸の最も北に位置する集落、イトコルトルミット村の反対側にあたる場所です。地元の人々が「イト」と呼ぶこの村には、東グリーンランド全体の人口の1/3に当たる、約400人が暮らしています。氷に囲まれた村には特別な美しさがあります。パルクを一列に並べ、スキーを装着したメンバーは、行程についてのブリーフィングを行います。予定ではウゥナテーク村まで行き、そこからイトコルトルミット村に戻り、その後山間部へと向かいます。この行程について、オーレが何か言うとしたら、それはイヌイット語で「たぶん」を意味する「イマカ」という表現でしょう。何ができるかできないか、どこまで進むことができるのか。すべての決定権は、自然にあるのです。イヌイットのオーレと時間を共にすることで、チームメンバーは「今この瞬間を生きる」ことを学んでいます。過ぎ去ろうとする今このときを、存分に味わうのです。そして出発の日、素晴らしい時間を共有する準備が万端に整いました。出発したメンバーは、それぞれが自分のリズムをつかんでいきます。このトレッキングは競争ではなく、他の冒険家と共に時間を過ごし、自分自身をより深く知るための旅なのです。ガイドが先頭を行き、もう一人のガイドが最後尾につきます。その間で、メンバーは先を行ったり後ろへ下がったり、それぞれのペースで自由に進みます。歩いたりスキーで進んだりすること45分。一旦休憩を取り、水分と栄養補給を行います。そして再び先を目指し進みます。極地トレッキングは、参加者全員にとって、未知で不慣れな自然環境に身を置き、太古から続く文化が教える知恵を学ぶ機会なのです。

1日目:クマが暮らす土地でイヌイットと出会う

かつては漁村であり現在も人が暮らすウゥナテーク村へ向かうチームの面々は、落ち着いた様子で氷上を進んでいきます。平坦な道の後にやってくる上りが始まると、チームは最初の難関にぶつかります。ソリをコントロールしながら上ったかと思えば、その後に下らなくてはいけないのです。奮闘ののち、チームはウゥナテークに到着します。氷に覆われた海を望む、色とりどりの家屋が美しい村です。訪問客であるチームメンバーの前に村人が集まり、「アルー、カノリピット?」(こんにちは、お元気ですか?)と、挨拶を交わします。家々のバルコニーにはクマの毛皮が干してあり、スノーモービルいっぱいにアザラシを積み、狩りから戻る村人の姿も見られます。匂い、色彩・・・メンバーの心に、感嘆が押し寄せます。船はもうはるか彼方。新しい世界へと足を踏み入れたのです。村を後にすると、スコアズビー・サウンドと呼ばれる湾の入り口を見渡す高台に出ます。そこにテントを設営し、極地最初の夜を過ごすことにしました。メンバーはペアを組み、テント設営に忙しく動き回ります。チームの雰囲気は穏やかで明るく、協力しながらテントを張ったり、食事に集まるテントに氷のベンチを作ったりするうちに、団結はさらに強まります。夜、オーレがイヌイット伝統の旋律を口ずさむ傍ら、メンバーはこれまで体験した冒険の特別な思い出をそれぞれに語ります。オーレが奏でる曲の中には、人生を歌ったものもありました。兄弟を亡くしたオーレのために、その痛みを癒そうと、オーレの母親が作った曲です。極地キャンプ最初の夜は、全員が互いに心を通わす、とても貴重な時間となりました。各自のテントに戻ると、夜通しの見張り作業が始まります。「今いるのがクマたちのテリトリーであることを忘れてはいけません」と、ガイドの一人が言います。双眼鏡を手に、メンバーは交代で水平線ならぬ氷平線を注意深く観察します。クマの出没に備えた見張りは非常に重要な任務ですが、同時に、メンバーにとっては非現実的ともいえる体験です。極地を包む白夜の光の下、様々な思案が喚起される夜が過ぎていきます。

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